5月3日 DUC Live “Voiceful Nation” 解説 vol.1
2022.4.2
Dreamers Union Choir:
Written by (-⊡ω⊡)ゞキラン Director 木島タロー
僕は今音楽大学で教職課程をとる学生の合唱を指導しているが、「声を失った状態」でいる学生が少なくない。元気におしゃべりをしながら教室に入ってくるのに、さあ歌って、と言うとまるでさっきまでとは別人のように音量が下がり、ふわりとした裏声で歌い始める。
「そんなアートはない。」と僕は言う。
各地の民族音楽にそう言う声がないのはもちろん、世界各地の大学合唱も、ヨーロッパのクラシックの合唱も、ローマ教皇の前で伝統的なグレゴリオ聖歌を歌うアルメニア人聖職者も、コルシカ島で伝統的歌唱を受け継ぐと言うカトリック教会のコーラス隊も、そんな声はしていない。
そんな声をしているのは「ウイーン少年合唱団」だけだ。
いくつかの理由で、学生たちは自分の声や自分が好きで聴く声と、音楽の授業でいう「良い声」は違うのだと信じ込んでしまっている。特に「のどをしめるのは悪い声」という洗脳がひどい。
学生たちの話を聞くと、彼らは声についてデタラメを教えられてきていることがわかった。しかも、「皆同じデタラメ」なのだ。頭から声を出すとか、腹から声を出すとか、指を口に3本入れろとか、科学的にはめちゃくちゃだが、それで通じているのならまだいい。しかし、「それらは、君らには意味がわかるの?」と学生に聞くと「わからない」というのだ。
ちょっとオンライン授業の動画を見てもらおう。40人ほどのクラスだ。
こんなにも子どもに伝わっていない言葉を、科学を学ばず「経験則しか定規がない」指導者たちは平成令和に至る今も使い続けているのだ。
今日の僕を作った2つの合唱がある。一つは中高6年間を過ごした自由の森学園の合唱で、もう一つは黒人教会のゴスペルだ。どちらの文化にも発声指導など一切ない。学生たちの話を聞くにつけ思うのは、発声指導を受けなかったことこそ、僕が合唱を愛し続けることが出来た理由だと言うことだ。
もちろん、学生には十分に正確で詳細な声の科学を教える。でもそれは、将来生徒に正しい発声を教えて欲しいからじゃなく、間違った発声を教えて欲しくないからだ。
おそらく元来、人は声について正しいことを教える必要などない。子どもは自由に歌わせておけばある程度自分の歌い方を見つける。歌う大人たちの社会の中にいれば尚のことだ。それがゴスペルシンガーたちに起こっていることでもある。
でも、日本はそれをなくした。
各地の民謡のように、美空ひばりやMISIAのように、「誰も寝てはならぬ」を歌うパバロッティのように、「メモリー」を歌う猫のように、そして、生まれたての赤ん坊のように、「のどをしっかりとしめて感情をのせる歌声」を、日本の教育は人々から奪ってしまった。
敗戦後あまりに自国の文化に自信が持てなくなった文化人たちが、ステージでにこりとも笑わず一糸乱れぬ音を出すあの特殊な「天使の」少年合唱団を至上の音楽とでも思ったのかもしれない(「とても特殊な一つの美」にすぎないというのに)。
その呪縛が始まる前、この国にもあったはずの生活音楽の声、その記憶をゴスペルは揺さぶり起こしてくれるのだ。それが多分、90年代のゴスペルブームの本質だと思う。
それを取り戻して見せる。
僕の思いは変わらない。まず「歌う理由」だ。その先に「声の科学」がある。
「歌う理由を歌う歌」をセットリストに詰め込んで、ライブタイトルを考えた。
DUCの初期にチャリティー付き合いのあった「Hunger Free World」というNGOがある。「飢えることのない世界」という意味だ。「そういう世界を作ろう」とか「力を合わせよう」とかではなく、先にまるでそれが存在するかのような結論を言ってる、その彼らのネーミングセンスが好きだった。
よし、それで行こう。まるでそれがすでにそこにあるかのように、自分たちがすでにそれであるかのように。
「声に溢れる国」
Voiceful Natio
ゲストは伝統歌唱「相撲甚句」の歌い手、元前頭3枚目、大至氏。現役時代は貴乃花や曙とも戦い、彼らとともに硫黄島に赴いて慰霊土俵入りで歌ったほどの第一人者だが、西洋発声についても研鑽を積んで伝統とブレンドした、このテーマに最適の御仁だ。
戦後史から拾った、この人と歌いたい詩がある。それがDUCの今回の新曲だ。
ゴスペルは結論じゃない。その先に、それが呼び覚ましてくれた僕らの記憶と音がある。
パワーコーラスのDUCがとどける、Voiceful Nation。
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2022年5月3日(火・祝)17:20 開場 18:00 開演
代々木 国立オリンピック記念青少年総合センター(アクセス)カルチャー棟小ホール
一般 4000円 学生(小中高専短大院)2800円