アメリカ黒人遺産聖歌集 (AAHH) PROJECT
2018.7.8
African American Heritage Hymnal、略称「AAHH」。
黒人霊歌の学びを大切にするDUCにとって、新たな財産、そして、新たなプロジェクトの始まりです。
こんにちは。ディレクターの木島タローです。
この本は、2018年1月、ミネソタの Sounds Of Blackness のリハーサルを僕が訪ねた際に、その会場となっていた教会で見つけ、頼み込んで一冊譲ってもらってきたものです。
そこから移動した先で合流した師、ストークスにこの本について聞くと、「お前、知らなかったのか」との返事。黒人教会では広く知られた賛美歌集だそうで、キャリア的にはちょっと恥ずかしい思いをしました。
600もの聖歌からなるこの聖歌集を帰りの飛行機の中でめくってゆくと、僕がこれまで教会で演奏してきた楽曲がわんさと詰まっていました。それらは僕の記憶の中では、会衆がみんな好き勝手に思い出す限り歌っている楽曲でしたが、「こんな風に一冊にまとめた本があったのか。」とため息が出ました。
前書きに、編さんした黒人教会の重鎮たちの熱意が込められています。
収録されている楽曲の多くは伝統的なものですが、中には、「Total Praise」や、「His Eye’s On The Sparrow」など、賛美歌としては比較的新しい曲も載っています。
各楽曲の末尾には、歌詞、メロディー、それぞれの作家の名前と、一般の賛美歌集の習慣に習って「メーター*」と呼ばれる数字が書かれています。
また、やはり一般的な賛美歌集のならいとして、この「AAHH」でも、それぞれの曲はアカデミックな四声体和声で書かれています。ソプラノ、アルト、テナー、ベースで、アカペラでも機能する編曲です。これは、ヨーロッパの賛美歌集が、歌の話声をそのままオルガンで弾く形を伴奏とする、という前提にできているからと思われます。
なので、編曲としては、音大を出てキャリアを積んだような、クラシックに造詣のある編曲家がアレンジしていることが伺えます。つまり、「黒人教会の賛美歌集とは言っても、全く現場のサウンドでは書かれていない」という矛盾を持っているのです。
僕が機内で次々賛美歌番号をピックアップして書き留めたのは、作家名が書かれておらず、その代わりに、「Negro Spiritual」や「African American Traditional」などと書かれた楽曲です。つまり、古すぎて作家がわからない楽曲の数々、広義にいう「黒人霊歌」の数々です。
そういう曲が数えたら約100曲ありました。それらもやはり美しい四声体で書かれています。
以前から思っていたのですが、賛美歌集の和声は、編さんした人々の情熱が込められ、美しくアレンジされているにもかかわらず、前述のような矛盾から、そのまま教会で歌われるのを聞いたことがありません。日本のキリスト教会でもなかなかないのではないでしょうし、特に誰も楽譜など読まない黒人教会では、歌詞とソプラノのメロディーの流れを何となく見ながら、何となくハモリを乗せあっていいカンジになっているのが常です。
ということは、このAAHHの楽曲たちが本のままのアレンジで歌われたり聞かれたりする機会はほとんどないということです。
DUCは、そのアレンジを歌ってみることにしたのです。
挑戦となるのは、音づかいを見るにつけ、黒人霊歌の数々をアレンジしたこの本の編曲者たちが必ずしも黒人教会の空気を知っているわけではないと思われることです。きっと、白人など、黒人とは違う人種、違う文化を持った編曲者たちが多分に混ざっているでしょう。
原音のままに歌うことを原則としつつ、発声、発音、ビート感などに教会の現場の空気も残す、という試みは、僕やDUCに向いていると思うのです。
黒人霊歌の学びをDUCが非常に大切にしているのは、僕らがゴスペルを通して学んでいるのものは歴史文化そのものだからです。その歴史や精神性/宗教性の深みをまなび損ねるということは、ゴスペルという音楽の芯を学び損ねるということであり、いくら見た目や声がよく仕上がっても、何かミュージカルの表現や発声の勉強と混同されたうわべだけの二次創作になってしまうのであれば、そこに「パワーコーラス」の「パワー」はありません。
奴隷制が生み出し、苦しい歴史の中で培われ、受け継がれてきた黒人霊歌の数々。
African American Heritage Hymnal という素材の宝箱から、歴史を紐解きながら、Dreamers Union Choir がお届けします。
まずは、この本についての僕とアメリカ人シンガーたちのトーク、お聞きください。
その下段に再生リスト(終わるごとに次々楽曲がかかります)をご紹介します。
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*メーター = ちょうど日本の五七五や、五七五七七などに当たる音節数。