おそらく日本初となる「ものまね合唱団」のためにこの魅力的な一曲を編曲する。
が、情報をもらってまず困ったのは、各ものまね師たちは誰を演じているかで声域が違うという話だ。りんごちゃんに至っては、武田鉄矢の時にベース、中島美嘉の時にアルトに行ってもらっている。ほいけんたさんもご本人の実際の歌声はベースであり、郷ひろみの時にはテナーとなる。
後で思えば当然のことだが、それぞれのキャラクターを活かすために適切なキーでなくてはいけないということに制作側も僕も早くから気づいた。
嵐のキーそのままで歌ってもらっても阿部寛の特性は出せない。ものまねとして特徴が出せないのだ。かといって曲全体のキーを下げれば女声にとって歌いにくくなり、オクターブを上下してもカバーしきれない。キーとオクターブ選択のパズルのような作業から始まったが、一筋縄ではいかない。
光明は、もともと原曲がちょっと珍しい転調を含んでいることだ。どうしてそう言うふうになったのか次回作曲者に会ったら聞いてみたいところだが(知人である)、この構造に乗じて転調を追加させてもらうこととする。
イントロからAメロでいきなり2半音落とす仕掛けを入れさせてもらう。こう言うことはものまね芸人さんというキャラクターがあってこそできることでもある。そうして下げたキーに、声域の低い阿部寛(ラパルフェ都留氏)と武田鉄矢(りんごちゃん)を挿入する。この武田鉄矢はギリギリだ。これより上のキーではキャラが損なわれる。その後半音上昇して福山雅治(ガリベンズ矢野氏)、さらに半音上昇して元のキーに復帰し、ここで嵐と大体同じ声域であろう星野源(杉野ひろし氏)になる。
サビが終わるともう一回キーが下がり、山崎まさよし( Rocky石井氏)が登場する。ここで伴奏をご本人の珠玉の名作「One more time one more chance」の曲調に切り替える。
こういった、各歌い手を活かすための編曲の工夫はエンターテイメントの現場ではそれほど珍しいことではないかもしれない。が、合唱、と言う枠の中で行うことは目新しく見えるだろう。
問題はそれが、プロのバンドがそのような編曲をビシッと演奏し、そこにものまね芸で乗っかる、と言う話ではなく、そのような転調などの演奏全体を自分たちが奏者として全員で練習することなのだ。
ものまね合唱団は番組内で触れていた通り、アンサンブルと個性の関係について大きな課題を抱えていた。 Mr.シャチホコ氏の精力的なリードもあり、これらを全員で超えていった形だが、僕もオンエアを見て興奮した。一つのエンターテインメントのスタイルが誕生した瞬間だ。
ものまね合唱団 Love So Sweet:
@gassho_battle ☺️#オールスター合唱バトル ♬ オリジナル楽曲 – オールスター合唱バトル
編曲およびノート: 木島タロー
Dreamers Union Choir (DUC)主宰
フジテレビ「オールスター合唱バトル」監修(総編曲/指導)
国立音楽大学合唱講師
東京経済大学ゲスト講師
アメリカ海軍契約ゴスペルディレクター
一般社団法人パワーコーラス協会代表理事
片手で持てる防音室「Voicease」開発
著書
6色発声トレーニング
歌って生き抜け命のコーラス