J-pop合唱化が残骸化にならない為に / Habit アレンジノート

難易度:

音程 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎  4

リズム: ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ◾︎  4.5

歌詞 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 5

技術 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 4

 

 

の曲を合唱にしてください、と言ってくださる点で、番組スタッフがどれほど僕を信頼してくれているかがわかる。いかにも無茶なご依頼だ。
 

無茶だからこそ見る方は面白いわけで、面白くなくてはテレビにはならない。テレビになる上で絶対不可欠なパーツの製造を依頼されているということなので、それは光栄なことだ。
 
が、さてどう料理するか。
 
言うまでもなく、J-pop を教育現場用の合唱アレンジにする試みはこれまでにも多数ある。

しかし「ビート感」と「感情の乗った地声(≒叫び)」というポピュラー音楽の魅力の必須要件を備えていない合唱アレンジでは、原曲のメロディーとコード進行という骨格だけを残した、ポピュラー音楽としては「残骸」と化してしまう。

 

私見での例えだが、ポピュラー楽曲の合唱化は、教育者達が「体に悪いから」と言って、とんこつラーメンから脂と塩分を抜いた、一昔前の病院食のようなラーメンを子供に与えるような状態におちいりやすい状態があると感じる(昨今は病院食のラーメンも美味しいらしいが)。

 

そういう音楽は、親戚や友達が出演しているか、コンクールで技術面のトップを競っているのでない限りチケットを買う人などいない。

 

ただ、仮にこれらのポピュラーの必須要件、すなわち「ビート感」と「感情の乗った声」を前提としたアレンジがあったとしても、教育現場の音大卒の指導者たちがそれを指導できない現状もある。

 

学習指導要領は進化し、最新の音楽教科書にはポピュラー音楽の要素もかなり多いにも関わらず、音大の教職課程にそれらの感覚を育てる機会は存在していないように見受ける。

 

つまり合唱教育において、「感情の乗った地声」と「ビート」の要素は、「理解出来ないから必要ないことにする」のが現場の態度になっているのではないかと、僕はいぶかしんでいる。

 

◆ ◆ ◆

 

レビのために依頼された以上、僕がこの曲を「(一昔前の)病院食」にしてしまうわけにはいかない。

 

一旦話が外れるようだが、音楽性以前に困ったのは歌詞の多さだ。ちょっと前は「ヒット曲の歌詞は出来るだけシンプルじゃないと」などと語るうんちく屋が多かったものだが、明らかにその考えは時代遅れとなった。

 

たった1ヶ月の練習で全員がこの歌詞を覚えるのでは、それまでに手間取りすぎて音楽の訓練に入れない。

そこでまず、ソロで歌詞を手分けする形を取る。幸い、合唱バトルではソロをフィーチャーする必要も機材もある。

僕としては、学校現場であっても校長先生がいつも使っているマイクを一本立てるくらいは出来るはずと思うので、ソロを合唱に織り込むことにあまり抵抗はない。

もちろん生声でまとまるのが一番いいが、それはそれで色々やりようがある(別の機会に記述する)。

 

それに、歌唱能力の差があってもソロとコーラスに分けることで全員が「共存」できるのがこの合唱スタイルの良さでさえあると思う。仮にMISIAと中学生であってもその形で一つの音楽を一緒に作れる。数学や語学ではそうはいかない。進捗の早い子と遅い子は基本的にクラス分けしなければどちらかに(両方に)不満や不都合が生じる。

ソロをフィーチャーする形が決まったところで、合唱の側の役割だが、この曲の主要部分はブルースやファンクなどにみられるいわゆる「リフもの」だ。

 

リフもの、とミュージシャンが呼ぶのは、一定の短いフレーズ(Riff)やコード進行を繰り返し演奏するその上にメロディーや歌詞が展開されてゆく形だ。もっと進化すると「ループもの」と言って、完全に同じ音源をデジタル技術で繰り返してその上にメロディーや歌詞をのせる。クラシックや多くのバラード曲は当然段々音楽が盛り上がって展開してゆくのだが、それと同じ脳でリフもの楽曲の合唱アレンジを考えると、音楽性の根本や歌詞の表現を阻害することになりかねない。

 

◆ ◆ ◆

 

Aメロなどの主要部分は、伴奏と歌を分けたいわゆるハモネプ型アカペラコーラスの形で楽器の役割に徹底させることで曲調が生きるだろう。

一方で、Aメロと同じコード進行で展開されるサビは合唱としてのパワーを持たせる必要がある。ハモネプ型に終始しては、「これなら少人数の方が整う」というコーラスになりかねない。


 

そこで、サビはAメロで作り上げたベースとテナーの楽器的フレーズをクラシックの楽式で言うところの「主題」のように残しつつ、そこに歌詞をコンビネーションすることで全体的な強さを出す形とした。

 

この際、ベースとテナーが楽器としてのビートの支えを失わないよう、ソプラノ、アルトのメロディーとは少し言葉の位置を変えている。

 

◆ ◆ ◆

 

とはいえ、このアレンジに原曲の魅力を持たせるにはチームとしてそれなりのスキルがいる。芸人合唱団はベストを尽くしてくれたが、視聴者にどのように感じられたかは気になるところだ。

 

また、ソロの表現には相当の練習が欠かせない。歌詞の中でどこがビートの頭になるかはっきり認識しながら、そこにアクセントを置いて歌うことが鍵になるだろう。

 

最初のフレーズでもうかっこいい、などと自分たちで思える状態を目指していただきたい。

 

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