バンドの常識は合唱の非常識? 第ゼロ感/アスリート合唱団

音程 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ◾︎ 3.5

リズム: ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 4

歌詞 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 4

技術 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 4

スタミナ:⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 5


声4部。

人選だけ見れば他のどのチームよりも音楽に縁遠い人材の集団のはずなので本来は3声で臨みたい。が、なにしろ半分男声であるためバランスがとりにくい。

芸人合唱団も男性が多いが、そちらはフィーチャーしたい歌い手が男声に多いため男声を中心としたアレンジで3声とする。

アスリートはフィーチャーしたい歌い手が女声にも多いため男声中心アレンジはしにくい。アスリート合唱団には現役の方もおり、リハの出席率がどうなるかわからないため、男声パートが難しくなりすぎないように考慮しながら進む。

 

年の男声J-popでは高域を妖艶に使いこなすボーカルが主流な中、この曲は今やレアになった正統派ロックの印象だ。ボーカルの音域も高すぎず、クラシックで言えばバリトンあたりだ。
このジャンルでよくある通り、エレキギターを中心としたバンドのリフ(Riff=1小節前後の短いサイクルで繰り返されるフレーズ)が曲の魅力の中核を作っている。これが合唱にとっては曲者だ。これがもしDUCのような「バンド+合唱」のグループだったら楽器でリフを演奏するのも盛り上がるかもしれないが、合唱バトルの主人公は歌い手たちなので、どのようにリフの魅力を歌に持ち込むかを考える。
ドゥーワップというジャンルでは印象的な歌詞の一部を繰り返してイントロや基本ビートを作る形がよく見られる。それはかつて奴隷たちが文盲であることを強いられた時代に培われた「大事な言葉はリズムで繰り返して覚える」という黒人霊歌の文化の子孫だ。

案の末、曲中の歌詞でリズムやゴロの良い Be-bop、と、Buz-up を利用して歌のリフを作ることにする。それぞれ最後のpをpaと発音してリズムの一部とするのはジェームズ・ブラウンの「ゲラッパ(Get up)」などに代表されるファンクの文化をもらった。

 

サビのコード進行にはクリシェが隠されている。クリシェとは「定型句」の意味で、特定のコード進行を繰り返すと自然に声部の一部に現れる音の流れ(主に半音階的なもの)のことを言う。この曲では、Dm-Dm/C-G/B-Bbと進むそのベースのレ、ド、シ、シbという流れのことだ。ここではまずベースラインなので隠れているというほど隠れていないが、クリシェは内声(アルトとテナー)に隠すか外声で目立たせるかで味が違ってくる。料理で言えば、アサリを出汁で使うか具で使うかのような差だろうか。

1サビではソプラノにクリシェをとらせることで印象付けておき、2サビではそれをアルトに隠すことで変化をつけた。隠したというより、ソプラノが主音であるレをヒットし続けることによるエキサイトメントを2番以降は優先し、そのための前振りとして1サビでクリシェを紹介しておく、という考え方だ。打ち続けるレは、地声で歌い続けるにはソプラノにとってもかなり高い音で相当なスタミナが必要だが、これはアスリートのチームであることを見込んでのことだ。学校合唱用のアレンジならこのようにはしないだろう。

 

人文化に限らず、最上川舟唄の「エーンヤコーラーマーガセー」など、伝統的な民俗音楽、特に労働歌では楽器ではなく歌がビートの中核をなすことは自然なことだった。日本では合唱という音楽の中でそれが珍しいことになってしまったのはいかにも寂しいことで、言葉とリズムで人と人とを繋ぐ合唱の機能が一部不全となっているとさえ言える。

躍動する肉体をもって歌うアスリートたちは、合唱が誰にとっても生活の一部であり、人生の一部であることを教えてくれる。アスリートが勝つとしたら、「物語で勝つ」。それはずるさなどではない。合唱という音楽が持つ「上手いだけで人が感動するわけではない」という特性だ。

 

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このアレンジの中では存分に隣の人と一緒にビートを作り出している感覚を味わっていただき、歌唱終了後には心地よく疲れ切っていて欲しい。

@gassho_battle 圧倒#オールスター合唱バトル ♬ オリジナル楽曲 – オールスター合唱バトル


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