難易度:
音程 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 3
リズム: ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ◾︎ 3.5
歌詞 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 3
技術 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 4
ある一つの J-pop の楽曲を思い出す時、多くの場合、まず思い出される部分はサビ、次にイントロだろう。
合唱バトルでは伴奏楽器がピアノ+α程度に限られた中、印象深いそのイントロをピアノだけに演奏させるのはもったいない。
せっかくの合唱なのだから、楽曲の最高の味わいの一つであるそのイントロも歌声で満たしたいというのは、僕にとっては自然な欲求だ。
また、イントロの間「オールスター」たちを突っ立たせて伴奏者を映しっぱなしというのはテレビ的にも無理がある(そして、テレビでなくても合唱の歌い手たちは常に「オールスター」なのだ)。
まして単独のシンガーではなくガールズバンドであったプリンセス・プリンセスは、バンド楽器のイントロからすでに彼女たち本人のアートだ。
完全音程の跳躍を繰り返す上行から順次進行での下降、というシンセサイザーの印象的なメロディーと、この曲の鼓動であるギターのバックビートの刻み。
もしこれがポップアカペラ(ハモネプ型アカペラ)なら、僕はそのそれぞれの楽器を別の声部で行わせるアレンジにしていただろう。その場合は、一人一人が歌唱能力で卓越することによって完成形が見えてくる。
しかし今回は「合唱」だ。
1人が1パートを担うのが通例のハモネプ型と違い、合唱では一つ一つの声部が声の束であることによってパワーが生まれる。声部を分割して構成音を増やして和音を豊かにしようとする試みは、同時に各パートの人数減によるパワーダウンを意味し、また、せっかくお互いに支え合いながら歌う生活音楽としてのアートなのに「仲間のサポートを失う」という、合唱としては許容し難いトレードオフを引き起こす。
そのジレンマの解決方法が、今回の「シンセとギターの役割の両方を全声部が同時に歌う」アレンジとなる。このアレンジのイントロに歌い手が楽しさを感じられるとしたらそれは、声部を減らさず、つまり、パワーやサポートを失わず、魅力的なバンドの複雑さを再現できるからだ。
J-popを合唱にアレンジするにあたり間奏をカットするのは不自然なことではないし、それをやってもアレンジャーを責める人はいないだろうが、この曲をリアルタイムで聴いた僕にとって、間奏の転調は捨てがたい。
しかし、本来インストである間奏を歌で紡ぐためには、声で歌わせるための言葉が必要になってくる。
インストのフレーズに言葉を当てる選択肢は意外とあって、僕の場合は主に四つだ。
①新たな歌詞を創作して追加する
②楽曲の一部を英語に訳して使用する
③すでに楽曲内にある歌詞を流用する
④意味のない母音と子音でジブリッシュ(スキャット)にする
あと、滅多にやらないが実の所もう一つ、「同じアーティストや関連のある別の楽曲の歌詞を持ち込む」という手法がある。The Beatles の All You Need Is Love のエンディングで 裏メロディーとして She Loves You が歌われている形などもそれに近いが、その説明は別の機会に移す。
①は著作権の問題がある。楽曲の同一性を守らなくてはいけないという原則が一応存在するので、アレンジは「同じタイトルを持った別の曲になってしまわないよう気を遣う」必要がある。そのラインはある程度グレーとは言え、新たな歌詞の挿入は発表や録音、ましてテレビでやるにはややハードルが高い。だったらまだ、楽曲の歌詞のラインを汚しにくい②の方がやりやすい。
③は、楽曲の歌詞の世界を変えることなく行うことができるためハードルは下がる。④は、実の所一番差し障りがないが、「原曲にもなく、意味もない言葉」が長く続くと歌い手の声からモチベーションが失われるという、合唱のパワーにとって大きなリスクがある。そのためこれをやるには相当な音楽的な面白さかその音形への意味づけが必要になる(今回はそれを「Habit」でやっている)。
リスナーにとっても同じだ。単純に言って、「We are the world!」という歌詞は歌い手全員が言ったほうがいい。優れたシンガーがパート分けをして、細かい技法でどんなに上手にドゥットゥルーなどと伴奏をハモれても、所詮全員で歌詞を歌うパワーに勝つ感動は作れない。それが合唱というものだ。
今回 Diamonds でとった手法は「②楽曲の一部を英語に訳して使用する」と、「③すでに楽曲内にある歌詞を流用する」の混合になる。
このDiamondsのアレンジの原型は実はもともと音大1年生の女声合唱のためのもので、間奏のビート感や歌い手の雰囲気から、僕の想像力がチアリーディングの空気感に至るのに時間はかからなかった。
が、タイトルのコールを叫ぶだけでは安易すぎて、その形で16小節飽きさせないためには多くの振り付けが必要になることが明白だ。それを避けるためもあり、叫びが途中から和音に切り替わる形としている。そこでは、2度音程の金属的なテンションを多用し、サビなど他のセクションの3度が基調となる和声と異なった世界観を出している。
Bメロのソロのバックの「ウー」では頭声を使っても良いが、そのセクション以外はこのアレンジに頭声は似合わない。ぜひ全員で大きなカラオケボックスに入ったつもりの声で歌ってもらいたい。ただし、音の立ち上がりをよく整えることを怠らずに。