音程 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ◾︎ 4.5
リズム: ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ◾︎ 3.5
歌詞 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ◾︎ 3.5
技術 : ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎ 4
「抹茶」の支配力は、味においても印象においても素晴らしい。チョコでもアイスでもケーキでも、そこに抹茶を混ぜればジャパネスクスイーツの出来上がりとなる。そのように安易な世の傾向を憂慮する一流パティシエやお茶のエキスパートたちももちろんいるだろうが、多くの消費者が気軽に楽しめる状態ではある。
同様に、「5音音階」や「箏のサウンド」などのジャパネスク要素を用いれば、ロックでもジャズでもゲーム音楽でも和風アレンジの体裁を容易に持たせることができる。坂本龍一、久石譲の名前はあげるまでもなく、松任谷由美の春よ来いや、米津玄師のパプリカもジャパネスク仕掛けだ。
オールスター合唱バトルの、アスリートチームの一曲「紅蓮華」は、主題歌となったアニメ「鬼滅の刃」の世界観に伴い、「紅蓮」「走馬灯」と言った単語の散りばめや、ボーカルには英単語やカタカナ語を折り込まない作りなど、歌詞にはその和ファンタジーな世界観が反映されている。
が、その一方で、楽曲は5音音階や和楽器の響きなどの目立ったジャパネス要素は持たないシンプルなRockとなっている。
和の歌詞、洋のサウンド、で均衡が取れているのかもしれない。もしかすると原曲の制作には、サウンドまで和にすると鼻につきすぎると考えたエキスパートがいたかもしれない。
そうであれば、コーラスを加えるにあたっては、和音が、和/洋のどちらに傾いても均衡を崩すことになる。あまりシンプルな和音だとただのロックに傾きすぎ、和を意識しすぎれば鼻につくようなジャパネスクになるかもしれない。
どちらかにしか転べないなら、今回は後者に転ぶことととする。それは、テレビに必要な分かりやすさを意識してのことでもあり、また、他の9曲と並べた時にこの曲独特の部分が必要なことが理由でもある。
人がハモるアートである合唱に単純に和楽器音(箏、三味線、和太鼓など)だけでジャパネスク要素を持ち込もうと思うと子供だましな印象になる。それこそ、シュークリームに抹茶の粉をかけたから和風菓子だと主張するようなものだ。
ともあれ今回は伴奏は主にピアノと決まっているので、いずれにせよそういう技法は使えない。
あくまで声の並べ方で勝負するが、合唱の和音の中にジャパネスクの神秘を持ち込むのは少しコツがいる。
西洋音楽は完全5度や長短3度の和音を基調とするが、日本では古来、雅楽の楽器「笙」に代表されるように、2度などの衝突を尊ぶ(添付動画資料「笙」の音色)。それには倍音の構造が持つとある特性が関係あるのだが、長い話なので別の機会にする。
なにしろ、2度、4度の響きを織り込み、それらが3度の色合いで包み込まれて和らぎすぎないように配置する。一方で、2度の響きは連続すると歌い手が自分の位置がわからなくなるので、分量や連続に少し押し引きが必要だ。
これらの和音は歌いこなすには少々難しいものになる。アレンジの際にこれらの工夫を織り込む時点でアスリートが歌うとわかっていたら、そうはなっていなかったかもしれない。
しかし結果としてアスリートたちが見事やり遂げてくれた姿に、感動よりも先に安堵があったことを告白しなくてはならない。
力強い掛け声と硬質な和音は、結果的にアスリートたちの持つ屈強さとよく似合った。
本アレンジを歌ってくださる方々にあっては、前後に足をずらして前の足に重心を置き、自分たちの正面中心、本来指揮者がいる位置の床に音を集めるようにして歌っていただきたい。